最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
彼はナタリアの顔を上向かせると、素早く唇を重ねる。
驚いたナタリアが目をパチクリさせているうちに唇は離れ、恥ずかしそうに気まずそうに視線を泳がせながらイヴァンは手を離した。
「……どうもいかんな。お前が同じ敷地内にいると思うと顔が見たくて我慢ができなくなる。執務室にやっかいな書類を持ち込まれたときには特にだ」
ナタリアは驚いてあんぐりと口を開いた後、可愛らしく眉を吊り上げて怒ってみせた。
「私を面倒なお仕事から逃げる口実にしないでくださいな」
会いにきてくれたことが嬉しくて胸をときめかせたのに、体のいいさぼりの言いわけに使われたようで、ナタリアは拗ねて彼から一歩離れようとする。
けれどすぐに一歩近づいてきたイヴァンの腕の中に捕まって、楽しそうにクスクスと笑われてしまった。
「冗談だ、そんな可愛い顔をして怒るな。俺は朝起きてから夜眠るまで、いつだってお前に会いたい。こうしてずっと抱きしめてキスをしていたい」
優しく腕に閉じ込めたナタリアの顔に、イヴァンはキスの雨を降らせる。
恥ずかしさとくすぐったさでモジモジと身じろぎしていたナタリアは、やがてはにかんだ笑みを浮かべてキスを唇で受けとめた。
イヴァンのたくましい背に腕を回して瞼を閉じながらナタリアは思う。ああ、このお方の妻になれる私はなんて幸せ者なのだろう、と。
そして多幸感に酔いしれる頭の中がやがて白いベールに覆われるのを感じ、ナタリアの意識は白い彼方へと消えていった。