最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
(……私だってイヴァン様を幸せにしてさしあげたいのに……)
イヴァンの青い瞳から、得体の知れない悲しみを取り去ってあげられない自分が情けない。もうすぐ彼の妻になるというのに、自分にできることはないのだろうかと考えあぐねる。
そのとき、部屋の扉がノックされ侍従が「皇帝陛下がお見えです」とドアの向こうから声をかけた。
たった今まで思いを馳せていた相手がやって来たことに、ナタリアは胸を高鳴らせながら「ど、どうぞ」と返事をした。
部屋に入ってきたイヴァンはいつものように深緑色の軍服を着ており、長い髪を後ろで括っている。二十四歳になった彼は麗しい男らしさに加えますます大人の色香を増し、油断するとうっとりと見惚れてしまうほどだ。
部屋にいた侍女らと共にドレスの裾を持ち軽く膝を曲げこうべを垂れる。するとイヴァンはすぐに人払いし、部屋にナタリアとふたりきりになった。
「イヴァン様、お疲れ様でございます。午前のご公務はもうお済みになったのですか?」
「ああ。……いや。お前の顔が見たくなったんで、少し中断してきた」
「まあ」
ようは公務をさぼってここへ来たということだ。彼の側近や謁見を待っている人らはソワソワしているのではないだろうか。
会えるのは嬉しいけれど戻るよう促した方がいいのだろうかとナタリアが考えあぐねていると、イヴァンがツカツカと目の前までやって来て軽く顎を掴んできた。