君色に染まる
「……センセに振り向いてほしくて必死だっただけです」
「そのことなんだけど……どうして私?好かれる要素ないじゃない」


センセは自己評価が低いと言いたいところだけど、生徒から嫌われている以上、そんなフォローは出来ない。


「……高一の文化祭のとき、迷子の子供に優しい笑顔を見せているところを見かけたんです。俺は、その笑顔に惹かれた」


初めはみんなと同じように嫌な先生だと思っていたのに、あんなふうに笑うんだと知り、先生を見る目が変わった。
気付けば先生を目で追う自分がいた。


そのうち、やっぱりみんなのイメージと違うんだとわかった。


そして、もう一度センセの笑顔が見たいと思った。


「……それだけ?」
「まあ、きっかけは」


掃き掃除が終わり、掃除用具入れにほうきを戻す。


いつの間にか背後に立っていたセンセは、俺を見上げている。


「……今日だけはイタズラ、許そうと思うんだけど」


そう言われて、何もしないでいられるわけない。
俺はさっきできなかったイタズラを、センセにした。


「絶対に誰にも言えないわ」
「センセがこんなに可愛いなんて、誰にも言いませんよ」


余裕たっぷりだったのに、チキン野郎になってしまった俺。
堅物だったのに、大人の余裕を見せてきたセンセ。


知らぬ間に、君色に染まっていた。
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