完璧美女の欠けてるパーツ
次の日の昼。
梨乃は手洗いアクロン仕上げをした鈴木のハンカチを持ち、20階の彼の職場を訪れた。
高嶺の梨乃さん登場に男女社員は驚いたけど、一番驚いていたのは本人の鈴木で、デスクにあるバインダーの山を崩しながら梨乃の元にやってきた。
背が高い。185はあるだろうか。
梨乃は鈴木を見上げてハンカチを渡すと、後ろから年老いたおじいさん的な人がやってきて。
「えらくべっぴんさんやなぁ。大志にもやっと彼女ができたか」と、大きな声を出したので鈴木は梨乃の背中を押して職場から出る。
「すいません。うちの先生がカン違いして、嫌な思いさせました」
「そんな事ありません。私こそ急に来てごめんなさい」
「いえ、あの……お昼は?おっお昼の予定はありますか?」
「いえ。今日は特に」
今日は同僚とランチの約束もせず、お弁当も作らなかった。
きっと心のどこかで鈴木と一緒にランチを取れたらと、朝から少しだけ期待していたからだと思う。
「下にいっぱい飲食店が並んでますが、穴場で隣のビルの地下にレトロな喫茶店があって、そこのランチが美味しいのですが、どうでしょう?」
「ぜひお願いします」
「よかった。では行きましょう」
メガネの奥の目が優しく笑ってる。
あぁやっぱりこの人と居ると気持ちが柔らかくて優しくなれるかも。梨乃は先を歩く鈴木の背中を見ながら温かい気分で後を付いて行った。