完璧美女の欠けてるパーツ

第三回作戦会議

いつもの場所で梨乃と大志はハイボールで乾杯をした。

「僕の事務所までも噂が届いてます『28階の高嶺の梨乃さんがフリーになった』と」

「大志さんのアドバイスのおかげです」
互いの目に映る嬉しそうな顔を見てまた嬉しくなるという、嬉しさの連鎖。

「男性社員の動きはありますか?」

「えーっと……まだです」

「これからですね」満足そうに大志が言う。
確かに一歩前進した。
他のフロアの男性との接触率が高い。エレベーターに乗れば気のせいか必ず他の男性社員も駆け込むし、顔をチラ見されるのも多くなったが、行動はまだ誰も起こしてくれない。
あと、同じ職場の女子社員が優しい。
ありがたい誤算だ。

「焦らないで大丈夫です。今月中は様子を見て、誰も動きがなかったら、また考えましょう」

「はい」
動きがなかったら……どうしよう。
いけない、前向きにならなきゃ。不安は伝染する、私が不安になると彼も不安になってしまう。こんなに一生懸命してくれてるのに。

「あと、何か不安な面はありますか?」

大志の言葉に箸を持つ梨乃の手が止まる。
不安な面……不安。
気になる事はある。

「俗に言う『べろちゅー』というものなのですが」
真剣に聞くと、大志はまた苦しそうに胸を押さえる。

「あれはしなきゃいけませんか?ネットで観たけど、祖母の家で飼ってた柴犬と似たような感じでしょうか」
めちゃくちゃなめ合っていて、見ているこちらがちょっと嫌な気持ちになりすぐ切ってしまった。
「キスで舌を入れるのが、なんとなく間違っている気がするんです」
堂々と昔からの疑問を大志にぶつけるけど、大志はまだ苦しそうな顔で天井を見ている。天井に答えがあるのかしらと梨乃も顔を上げるけど、もちろん何もない。

< 29 / 80 >

この作品をシェア

pagetop