完璧美女の欠けてるパーツ
「鈴木せんせー。あのオーナーはヤバいっすよー。値切るだけ値切りそう」
超高級会員制ジムのロビーを歩きながら、大志は後輩を冷たい目で見る。
「顧客の前でその話し方はNGだから」
「そんなのわかってますって」
「普段からそーゆー話し方をしていると、ふとした時に出てくるだろ」
そう言って、ふと梨乃の口調はどんな時もきちんとしていたなと思い出し大志の胸は切なくなる。
「うわぁ機嫌悪っ。機嫌悪くなるのはこっちの方ですからね。急に連れ回されて……」
「ブツブツ言わない!こないだのミスの貸し」
「彼女に電話していいっすか?」
「……3分ね」
「やったー」
後輩はスマホを出しながら嬉しそうに大志から走り抜けてロビーの隅に行く。大志は脱力しながらロビーのソファに遠慮しつつ座り込んだ。
高級ホテルと間違うくらいの清潔感とゴージャスさ。セレブ達が楽しそうにラフな服装で目の前を通り過ぎる。スーツ姿の自分たちの姿が逆に恥ずかしい。ボスである大先生がどこかのセレブなパーティーで名刺を配りまくったせいか、ここのジムのオーナーが大志が務める税理士事務所に興味を持ち話をしたいと言われ、大志が『時間外勤務反対!』と叫ぶ後輩を引きつれて挨拶に来たという話だった。
ジムのオーナーは鍛えられた筋肉ではなく、身体中不摂生的な感じの丸いお腹を持った50代の男性で優しそうな顔をしていた。でもそれは営業用なのか、金が絡むと顔つきが変わるタイプで厳しい顧客になりそうな印象で、今回は挨拶に来るだけの話だったけど、契約内容とか突っ込んで来たから遅くなってしまった。面倒な客かもしれない。
さて、大先生にどう説明しようか
大志が頭を悩ませていると、爽やかなイケメンふたりがミネラルウォーターの瓶を持って近くで立ち話を始めた。