煙草未満。―唇を塞ぎたくて―



「ごめん、傷つい……」

「あいつか」

た、という文字は消えた。存在しないのかもしれない。

まさか、発言の主を特定しようとしていたなんて。



「あいつであってる?」

「いや、どいつよ」

「しらね」

……やっぱり、くそ教師だ。



「由梨花しかわかんねぇや」

……よく先生やれてるね、せんせ。

「由梨花呼びもよくないと思うけど」

「あー」

言いにくそうに頭をかく姿を見て、しまったと思った。



私の苗字、覚えていないのか。



自分が傷つくかもしれないことの種を、自分でまいてしまった。

失敗した。

「……サクミヤ?」

疑問形。カタカナ。……あやふやってこと?



「朔宮」

今度は、しっかり。





「いつも由梨花って呼んでっから、いまさら苗字呼びはしっくりこねぇな。ぎこちない」



どこか自慢げなその横顔に、腹が立つ。

「〜っ」

顔、あっつい。


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