愛というもの~哀しみの中で~
大吾に会いたかった。大吾の温もりに触れて、匂いに包まれていつものセリフを聞きたかった。
もう記憶の中でしか聞くことができない…

『茉莉、いつもありがとう、大好き、愛してる。』

でも、毎日真さんの声を聞いていて私の記憶の中の大吾は本当に大吾の声なのかなって自信がなくなってきた…
8年も一緒にいて毎日聞いてきた声だから、大吾の声を間違えるはずないのに…でも自信がなくて不安になる。
私の心の中は大吾の場所なのに…

隣でミルクを飲んでいる昌美ちゃんを緩んだ顔でずっと見ている真さんはやはり恭吾が生まれたばかりの大吾がしていたような顔をしている。

「可愛いなぁ。恭吾もこんな時があったんだろ?可愛かったんだろうな。」

昌美ちゃんを見て恭吾を思い浮かべているらしかった。

「うん…いっつも大吾はそうやって横でおっぱい飲んでる恭吾を覗き込んでたの。ゲップさせるのは大吾が担当で潰しそうって言いながらそろそろするからなかなか出ないの。」

「へぇ~、確かに、赤ちゃんって力加減がわからないもんな。抱っこも押しつぶさないようにって変に力入るもんな。」

真さんは昌美ちゃんの顔を愛おしそうに見つめて言うから、

「ミルクあげてみたらどう?昌美ちゃんなら人見知りしないし大丈夫だよ。」

そう提案してそろっと昌美ちゃんを真さんの腕に乗せた。
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