天満つる明けの明星を君に②
「天満、少々痛む故、これを噛み締めていなさい」


晴明が天満の口に噛ませたものは麻酔効果のある木片だった。

針とは呼べない太さの針を手にした晴明は、天満の右目の少し上で構えて朔を慌てさせた。


「お祖父様、まさかそれを目に…?」


「そうだよ、解毒薬を先端に塗ったこの針で右目から毒を抽出するのだ。身体中に毒が回っていない今ならばできる」


誰も晴明の治療を疑ってはいない。

だが目を刺されるといった行為にはさすがに面々が顔をしかめてしまい、実際一刻の猶予も争う状態だった晴明は、皆を説得する暇もなく、照準を定めて天満の右目に針を突き刺した。


「う…っ!」


「天様!」


天満の手を握っていた雛乃の手に、痛みに耐えようとして力がこもった天満の爪が刺さった。

どれだけ痛いだろうかと涙目になる雛乃の前で――天満の右目から緑色の液体が水鉄砲のように飛び出た。


「これで失明は免れるだろうけれど、肌に付着しているものも早く処置しなければね」


毒が肌から吸収されて体内に回る可能性もあるため、慌ただしく動き回る晴明の邪魔にならないようにと脇に避けようとした雛乃の手を、天満が握って引き留めた。


「雛ちゃんは、ここに居て…」


「でも私お邪魔に…」


「居て欲しいんだ。ここに居て…」


天満に懇願されては拒否できるわけもなく、雛乃は処置が終わるまでずっと天満の手を握り続けた。

――吉祥が、許せない。

一対一の決闘の場面で卑怯な手を使い、鬼脚家に伝わる毒までも使って天満を殺めようとしたことが、心の底から許せない。

吉祥への恐怖が憤怒に変わり、庭で縄に縛られて転がされていた吉祥をぎっと睨んだ。


「私…許せない…」


震える声で吉祥を呪い、睨み続けた。
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