天満つる明けの明星を君に②
‟雛菊”は、とても甲斐甲斐しい娘だった。

暴力を振るう夫と冷遇する義母たちの間で肩身が狭い思いをしながらも、よく働き、じっと座っている所はほとんどなかった。

だが天満は雛菊を上回る甲斐甲斐しい男だった。

雛菊と夫婦になってからは今まで働いた分ゆっくりしてほしいという思いがあり、労り、支え合ってあの短い時を過ごしてきた。

そして‟雛乃”も、甲斐甲斐しい娘だった。

居間まで自力で辿り着けない天満のため、食事を運び、それを食べさせたり、換気を頻繁に行って空気を入れ替えて快適な空間を作ろうとしてくれていた。


「雛ちゃん、ゆっくりしてていいんだよ」


「いえ、私ちゃんとお世話できますから。暁様のお世話もお任せ下さい」


普段頻繁に部屋にやって来る暁は、朔たちに止められているのかあまり顔を出さなかった。

それはそれで寂しかったのだが…雛乃とふたりきりでゆっくりできるのは純粋に嬉しい。

自分のために色々考えながら頑張ってくれている姿がたまらなく愛おしくて、ゆっくり息を吐いた。


「吉祥をどうにかしたら話があるって言ったの覚えてる?」


「はい、でも本調子になってからでいいです。…良い話ですか?悪い話ですか?」


「良い話だと思いたいところだけど、どうだろうね。どんな話だと思う?」


天満の背中を支えながら起こしてやった雛乃は、水差しで水を飲ませてやりながら小さく笑って首を振った。


「全然分かりませんけど、どんなお話でもちゃんと聞きます。それよりちゃんとお水飲みました?」


「ふふ、うん。汗をかいて気持ち悪いんだけど…手伝ってもらえる?」


雛乃の顔色が変わると、天満は吹き出して肩口から腕を抜き、上半身を晒して声を上げかけた雛乃ににこっと笑いかけた。


「よろしくお願いします」


「お…お任せ下さい!これ位なんでも…なんでもありませんっ!」


強がりを言ってまた天満を笑わせた。
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