天満つる明けの明星を君に②
天満の身体は無駄な肉が一切ついていなかった。

骨ばっていて、ごつごつしていて――触っていると妙に鼓動が騒いでやるせなくなる。

何しろ男にこうして触れたのは天満がはじめての男であり、男は皆こんな身体つきなのかと思い、つい口走った。


「男の人の身体ってなんだか…いやらしいですね」


「僕や兄弟たちは鍛えてるからこんな身体つきだけど、全員が全員こうじゃないよ。…いやらしいって具体的にどこが?」


そう問われると猛烈に恥ずかしくなった雛乃は、天満からぱっと手を離して手拭いを両手で握り締めた。


「ぐ、具体的にって…なんとなくそう思っただけです」


「否応なしにこうして僕以外の男に触れなきゃいけないことも今後あるかもしれないし、慣れておいた方がいいよ」


「ありません。そんなこと…他の男に触れるなんて、絶対に」


断言した雛乃は、物心ついた時から男に対して嫌悪感を持っていた。

それに拍車をかけたのが吉祥であり、無理矢理触れてこようとしたことで何度も失神しそうになり、その度にぽんに庇われてきたものだ。

だが今後はきっと天満が…天満が庇ってくれるはず。


「断言されるとなんか…恥ずかしいんですが」


「天様は時々すごく女慣れしてるなって思うことを言ったりしますよね。‟絶対守るから”とか。私、鵜呑みにしちゃいそうになって大変だったんですから」


「鵜呑みにしていいよ、本心からだし。…でもその女慣れしてるっていうのは違うからね。僕はお嫁さんとしか関係を持ったことがないし」


――それはとても意外な告白で、目を白黒させた雛乃は、そんな顔を見て苦笑した天満に見惚れてしまい、ぽうっとした。


「だからこんなことは雛ちゃんにしか言わない。今後もずっと」


それはもう、告白としか思えなかった。

至近距離でじっと見つめてくる天満から目が離せず、その顔がゆっくり近付いてきた。

ゆっくり、ゆっくりと――
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