天満つる明けの明星を君に②
亡くした天満の妻に対して、なんとなく引け目があった。

それに天満はこんな風に唇を求めてきながらも、‟亡妻を今も愛している”と平然と言う。

その神経は一体どうなっているのか――釈然とはしなかったけれど、求められていることに対して溢れ出る喜びを感じていることは確かだった。


「誰にも触られたくないのなら、誰にも触らせない」


「天様…奥様を一番愛してらっしゃるんでしょう?でも私にこんなこと…期待させるのは良くないことです。どういうおつもりなんですか?」


――いつかそう問われるのではないかと思っていた。

軽率な男だと絶対に思われたくない天満は、もうこの際ここで‟君は転生した僕のお嫁さんだ”と言ってしまおうかと思った。

だがそんな話、一体だれが受け入れてくれるだろうか?

自分の家ではよくあることだと朔は言ったけれど、雛乃はどうだろうか?


「…遊びじゃない。僕はもうずっと、この心を動かしてくれる人を待っていたんだ。それが君だって言ったら…どうする?」


「それは……それは…私のこと…好いて下さっているということですか…?」


「そうじゃないとこんなことしない。…君が好きなんだ、雛ちゃん」


ようやく聞き出すことができた天満の本心に、ぽろりと涙が零れ出た。

自分みたいに出自の分からない女、相手にされるわけないとずっと自分を卑下してきたけれど、天満は今目の前ではっきりと、言ってくれたのだ。


「私も…お慕いしております。でも鬼頭家はとても家柄が良くて…私は親も分からない捨て子で…」


「そんなの関係ないよ。僕の家が気になるなら、ここを出たっていい。僕は君を選んだんだ。だから君も、僕を選んでほしい」


「そんなの…もう、選んでます」


身体の奥底から、どくどくと妙な胸騒ぎのようなものが競り上がってきた。

一瞬、走馬灯のように何かの記憶が駆け巡った。


天満とふたり、炬燵で蜜柑を食べている自分の姿――

自分ではないはずなのに、自分と同じ顔をした女が、居た。
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