天満つる明けの明星を君に②
律儀な天満は早々に朔にぽんの頼みごとを話した。

ぽんが助けたいと言っている人物が鬼族の娘ということもあり、朔はぽんからさらなる詳細を引き出すために眼前にちょこんと座っているぽんをじっと見つめた。


「暁の面倒を見てくれた礼に探してやる。で、名は?」


雛乃(ひなの)でやす」


名を聞いた途端思わずどきっとして身じろぎした天満は、朔にちらりと流し目で見られてすみませんと小さく呟いて俯いた。

ぽんの里は遠野で、救済してもらえると分かったぽんは早速里に文を出すべく朔と天満に頭を下げて出て行ったが――天満は苦笑して朔に謝罪した。


「すみません、なんだかどきっとしちゃって」


「その気持ちは分かる。雛菊が死んでからどの位経つ?」


「さあ…数えたことがないので分かりませんが…朔兄は雛ちゃんを待つのを諦めた方がいいと思ってます?」


問われた朔は、腕を組んで背もたれに身体を預けた。

――実際天満の精神状態をなんとか保たせているのは、雛菊が転生する可能性があるから、という一点のみだ。

転生して出会うまでに、暁が天満の亡くした娘の転生した存在だと知っているのは天満以外の者たちは知っているが、それは特に明かすつもりはない。

暁が居なければ天満はとっくの昔に壊れていて、死んでしまっていただろう。


「そうは思っていない。だけど俺が所帯を持つ位の長い時がかかっているのは確かだ。天満、諦める必要はない。お前は雛菊を待ちつつ暁を慈しんで育ててやってくれ」


「はい」


天満がその場を去った後、朔は控えていた雪男を呼び寄せて問うた。


「そろそろ転生していてもいいんじゃないかと思うが、どうだ?」


「どうだろうな、事例は調べたけど俺たち時間の感覚が希薄だからどの位年月が経ったかは書物には記されてないことが多いから」


「そうか。俺はそろそろだと思う」


あくまで勘だったが、その勘は外れてはいなかった。
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