天満つる明けの明星を君に②
百鬼たちの間で雛乃の存在が話題の中心となった。

この中枢と呼べる場所で朔に仕えるということは誰もが望む地位であり、余程の実力がない限り望めるものではない。

しかも次代の当主付きともなればもう今後の地位は安泰――

さらに言えば、あの天満が――

あの天満が女とまともに話をしているということが、女の百鬼たちを打ちのめさせていた。


「暁様、もう食べれません…!」


「だーめー!雛ちゃん痩せてるからいっぱい食べて!」


上位の妖ともなれば何も食わなくとも生きてゆけるのだが、食えばその分身になることは確かで、雛乃はとても痩せていた。

鬼頭家では、必ず一日に朝昼晩全員で食事をする。

朔夫妻、輝夜夫妻、雪男夫妻が揃うと食卓はまさに圧巻の光景であり、その場に暁に引きずり込まれた雛乃は、戦々恐々の思いで味が分からないほど緊張していた。


「雛乃は料理ができるらしいから、教わるといい」


「何よそれ、私に言っているのね?わ、私だって努力しているんです!お味噌汁なんてもう完璧に作れるんですからね!」


慌てて言い訳をする芙蓉にぷっと吹き出した朔の笑顔を見た雛乃がぽうっとなると、若干むっとした天満は湯飲みをとんと置いて隣に座っている暁の肩に手を置いた。


「食べ終わったようだし、稽古をしようか」


「えーっ?まだ雛ちゃんと遊びたい…」


「じゃあそうするといいよ、代わりに弟の方を鍛え…」


「私がやるもん!」


暁の弟は年子で、余りある才能があった。

機才もあり、頭の回転が良く、幼い頃の朔にそっくりだったが、弟思いの暁は弟に痛い思いをさせることが嫌で、常に庇い続ける。

さっと立ち上がった暁が天満の腕を引っ張ると、雛乃は慌てて箸を置いて両手を合わせた。


「美味しく頂きました。では私は暁様のお部屋の掃除を…」


「雛乃ちゃん、私がここでの注意点とか教えるから掃除は後でいいよ」


朧に声をかけられた雛乃は、一緒に縁側に出た。

そこで朔が口を開いた。


「天満、久々にやらないか」


「え」


にやりと笑った朔に、嫌な予感しかしなかった。
< 43 / 213 >

この作品をシェア

pagetop