いつも、ずっと。
「明日美だって似たようなもんやっか。俺のこと散々『イケメンじゃなか』って言いながら、俺の彼女のフリしてくれよったとやろ」



明日美の言い分を認めることはできない。

かなり苦しいけど、自虐的に反論するしかなかった。



「私はイケメンが好きとは一言も言うとらんよ!!だって、私が好きなとは……イケメンじゃなくて……」



そうだよな。

前にも明日美とイケメン問答したことがあった。

あの時に俺に言ってくれたこと、忘れたりはしない。



『友也以外の男は眼中になか』

『友也しか見とらん』



つまり明日美にとってはイケメンかどうかは関係がないということ。

俺が明日美以外の女はどうでもいいのと同じで、明日美も俺以外の男は興味がないということなんだろ?



さっきからずっと明日美の視線が痛い。

俺はそんな明日美の顔を真っ直ぐに見ることが出来ない。

明日美と目を合わせてしまったら、もうこれ以上嘘をつき続けることを放棄してまいそうだから。

わざと明日美の方を向くことはせず、ただ前を向いてフロントガラスに流れていく雨を見ていた。



「友也、聞いて欲しいの。私ね、友也のこと…………」



「言うなっ!!」



ヤバい!そう思い焦るとつい大きな声を出してしまっていた。

明日美の体がびくついたように大きく揺れ、言いかけの告白の台詞は最後まで紡がれることなく消えていった。



「ごめん明日美……。いまここで、その言葉ば聞くわけにはいかん。だけん言わんで明日美……。頼むけん」



もうどうしようもないくらいに苦しくて、やりきれない思いが溢れ出してしまいそうで。

それを必死に抑えようとして、ハンドルに突っ伏した。

今の俺は情けない顔をしているに違いない。

そんな顔を明日美に見せたくなかった。



「どっ、どうして!?言わせてもくれないなんて、そんな……」



今ここで明日美の気持ちを聞いてしまったら、俺はもう自分を止められそうにもない。

自制心をかなぐり捨てて、本能のままに自分の欲望を満たしたいなんて思ってしまうんだ。



だけどそんなこと出来ない。

やっぱり今はまだ時期尚早だ。

車の外はまだ雨が降り続いている。

俺の心を表しているような、涙雨。



「じゃあ、その代わりに一つ聞いてもいい?どうしてこの一週間、一度も連絡くれんかったと?」



それは契約だから。


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