いつも、ずっと。
ああ、そうだな。

俺も契約なんか要らないと思ってる。

青柳さんと付き合うフリの契約なんか……。

だけど簡単に破棄できるものでもない。

明日美との契約はいつの間にか俺の心の拠り所となっていた。

偽者だったとしても、明日美が俺の彼女でいてくれることが夢の実現へと邁進するための原動力となっていたのは明らかだ。

俺の意識をこんな風に変えてしまうなんて、いかに俺にとって明日美の存在がかけがえのないものなのか。

改めて思い知らされる。



「……俺は元々、明日美とフリでも付き合うつもりなんか全然なかった。あの時は成り行きでそうするとが一番の最善策かと思うとったけど、やっぱりずっと親友のままでおれば良かったとかもな。まだ人生経験の足りん高校生やったけん、青かった」



偽者彼女ではなく、親友だったら。

こんなことにはならなかったのか?

不用意に明日美を傷つけてしまうこともなかったのだろうか。

社会人になっても、ちっとも大人になんかなれていない気がする。

俺はまだ青いままなのかも知れない。




「友也も知っとるやろ。未来はイケメンしか好きにならんよきっと。それでもいいと……?」



「そいけん瀬名に会わせたとやったもんな。しかしあの時、青柳さんに瀬名ば紹介するって聞いて背筋の凍りそうになったばい。もし青柳さんが瀬名のことば気に入ったらどがんすっかと焦った。でもそうならんで良かったって心底思うとる」



明日美は瀬名と田代先輩の関係を知らないからな。

あのダブルデートで青柳さんが本気で瀬名を気に入ってしまったり、付き合ってみたいと言い出したらどうなっていたんだろう。

瀬名にその気がなくても、なにかしら一悶着起きていた可能性は否定できない。

瀬名と田代先輩は無事に仲直りできたんだし、そのことについては良かったと胸を撫で下ろしているけど。



「友也も未来もおかしかよ。『付き合えば好きになる』なんて……普通逆やろ。好きになってから付き合うもんじゃなかと?ねぇ友也、本当に未来と付き合うつもり!?」



おかしいのは百も承知している。

明日美の言ってることはもっともだと思う。

俺と明日美が偽りの恋人だったのも、好きという気持ちを確認してなかったからだし。

普通は気持ちを伝え合ってから、付き合うものなんだろうし。

そうじゃないのが、偽りだという何よりの証拠。



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