いつも、ずっと。
指先同士が微かに触れ、手繰り寄せるように明日美の手をしっかりと掴んだ。

しかしそこでホッとする暇なんかない。



倒れていく明日美の体を引き止めようと、懸命に腕の力を振り絞って引き上げようとするけれど。

なんせ前に体を投げ出すのに必死で、自分の体を支えることまで気が回っていないのが現実。

そのまま明日美に引っ張られるように、俺の体も階段の下に向かって落ちていくのを止めることなんてできずにいた。



明日美と一緒に落ちるなら、それもいい。



俺には恐怖なんてないけど、せめて明日美だけは守ってやらなければ。

二人して落ちていくのを止められないのなら、明日美が怪我をしなくて済むように。

痛い思いをさせなくていいように。



明日美の体をしっかりと抱き締めて、転落の衝撃を俺一人の体で受け止めるようにと、背中で階段をズザザザザーッと滑り落ちていった。







ほんの一瞬の出来事だったんだろう。

しかし、とてつもなく長い時間だったように感じられた。



「友也、友也!!大丈夫?しっかりして!」



明日美…………。

無事だったのか?



明日美が無事だったのなら、良かった。




「……捕まえた。もう離さんけん、もう俺から離れんで、明日美」



今、俺たちは歩道橋の階段の下で抱き合ったまま。

階段をずり落ちたそのままの体勢で、俺が下になって明日美がその上に乗っかっている。



「友也、体は大丈夫と?起き上がれる?」



ああだから離れたくないって言ってるのに。

やっとこの腕に捕まえたんだ。



「ねぇ、友也、友也ってば……んっ…………」



起き上がろうとする明日美を、更に力強く抱き締め

て強引に唇を奪った。



今までの俺だったらこんなに周りに人がたくさんいるところでキスなんて、絶対に出来なかった。

しかも倒れ込んだまま、抱き合った状態で。

常識はずれもいいところだ。



明日美とキスするのはいつ以来だろう?

ダブルデートしてくれと明日美に頼まれたあの時が最後だったか。

イケメン問答したあと、ちょっとした言い争いになってからの………。



さすがに耐えきれなくなったのか、腕の中でもがく明日美。

今はこれが限界か。

もう逃げられることもないだろうし、やむなく明日美を拘束していた腕の力をゆっくりと抜いてやる。



唇が離れ、至近距離で見つめ合った。




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