いつも、ずっと。
「なっ、なんね!私の気持ちなんてなんも分かっとらんくせに!私はね、今日は友也に会うつもりなんてこれっぽっちもなかったとやけんね。もううちの両親にも『友也と本当は付き合っとらんかった』て言うたし。瀬名くん、ごめんけど私今日は帰るけん……。月曜日に会社でね。バイバイ」



俺に口を挟む隙を与えないように、一気に喋り切ってこの場を去ろうとする明日美。



「待てよ!まだ俺はお前になんも伝えられとらん」



「もう聞きとうなかし、顔も見たくない。…………さようなら」



捨て台詞を吐いて、歩き出した。



「明日美!」



俺の呼び掛けに応じることなく遠ざかっていく後ろ姿を、黙って見送るつもりはない。



「おい、明日美って!行くなよ!」



「もう、着いてこんで!」



こちらを振り返ることもなく、だんだんと足早になっていく。

俺も逃がさないように更にスピードを上げる。



早歩きだろうが走り出そうが、すぐに追い着いてみせる。



歩道橋の階段を降り始めたのを見届け、この手に捕まえるのは二人とも下まで降りきってからだなと、脳内でシミュレーションしながら少し距離を空けてみた。



階段の途中にある踊り場まで降りたところで、明日美が後ろを振り返った。



俺がちゃんと追っかけて来てるのかを確認したかったのか、どのくらい距離が離れてるかを見たかったのか。

俺の姿をその視線で捕らえると、一瞬泣き出しそうな表情になったのを見逃さなかった。



なんだ、早く捕まえて欲しかったのか。



それなら階段を降りきるまで待つ必要はなさそうだな。

少し緩めていた歩調をまた早めて、明日美の元へ急ぐ。

それを見た明日美は顔を反転させて再び階段を降りるつもりらしい。



『素直にそこで待っとけばよかとに』



天の邪鬼なところも可愛いなと思いながら、踊り場にたどり着いたその時。



階段を駆け上がってきた若い男性の腕が、明日美の肩の辺りに軽く接触した。

男性はそのまま走り去って行ったけど、明日美の体がバランスを崩して大きく揺れている。

まずい!このままじゃ……。



「危ない明日美っ!!」



階段の下に向かって傾いていく明日美の体を引き留めるために、無我夢中で体を前に動かし必死で手を伸ばす。



明日美も俺に向けて手を伸ばしている。

何がなんでも、その手を掴んでみせる!





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