目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「い、いえ。何も?何も、ついてないです。行きましょうか?」

彼は立ち上がろうとする私に手を差しのべ、こちらの歩みに合わせてゆっくりと歩いてくれる。
すると病室に帰る途中、突然彼が話を切り出した。

「あのな……俺が他人に見えるのは仕方ないと思うけど……普通に話してくれないかな?」

「普通?……普通ってどんな感じ?」

「それ!今俺に話し掛けた感じでいいんだ」

そう言った彼は本当に嬉しそうだった。
砕けた感じ?でいいのかな?
その方が私としても楽だからいいんだけど。

「うん。頑張ってみる」

「そうしてくれ。あと、俺のこと、何て呼ぶか迷ってる?」

どうしてわかったんだろう!?
今まで用事のある時は「あのー?」とか「すみません」とかで誤魔化していたんだけど、それをずっと続けるなんて無理だし。
一色さん?って、私も一色さんだし?

「……うん。迷ってる」

正直に答えると、彼は大きな声で笑った。

「蓮司、でいいよ」

「……前もそう呼んでた?」

なんだかちょっと違和感がある。
全く覚えていないけど、もっと畏まって呼んでいたような……。

「本当のことを言うと、そう呼んでなかった。でも、そう呼んでくれていいよ」

やっぱり……。
呼び捨てなんてたぶん私は出来ないと思う。
それは、彼との歳の開きから考えてみてもわかること。
目上の人を呼び捨てることは、私の中ではあり得ない……と、何故か考えたのだ。

「じゃあ、蓮司さん、と呼びますね」

「《さん》はいらないけど……でも、呼びやすいならそれでいいよ」

彼は少し残念そうな顔をしたけど、すぐに朗らかに笑い、私に手を差しのべた。
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