目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「は、はい。じゃあ一切れ……」

丁寧な箸使いで鯛を取り、ちょんと一度醤油につけ、パクリと口に運ぶ。
すると、百合の表情が一変した。
青ざめていた頬が、みるみる薔薇色に染まり、目の力が戻ってくる。
そうだ。
百合はこうでないとダメだ。
いつも美味しそうに食べて、楽しそうに笑っている。
あの頃の百合を少し垣間見た俺は、少し泣きそうになった。

「美味しい……美味しいです……」

そう言って百合は、何故かパタンと箸を置き俯いた。

「どうした?もっと食べていいよ」

問いかけた俺はハッとした。
俯いた百合が泣いていたからだ。

「……はい。あの……ごめんなさいっ……」

必死で涙をぬぐいながら、笑おうと努める。
その痛々しさに言葉を失った。
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