目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。

彼女は料理が得意だった。
学校から帰ってきてすぐ、制服の上にエプロンを着けて家事をする。
そして、短時間で何品も仕上げるのだ。
その手際の良さに俺は舌を巻いた。
何人かで夜、急に押し掛けても、有り合わせのものでさっと酒のあてを作ってくれる。
俺も料理は嫌いではなかったが百合のそれはもうプロ顔負けだった。
「いい奥さんになるね」と、誰かが声をかけると、そのふっくらとした頬が赤く染まる……。
その様子を俺は今でも鮮明に覚えている。

小学校の頃に母親を失くしてから、百合はずっと家事をやっていた。
別に教授がやれと言った訳じゃない。
これは百合自身が楽しんでやっていたことだと、後に俺は本人から聞いた。
作ることが好きで、節約家。
八神百合はそういった普通の女の子だった。
充分なお金を持っていながら、普段の２人の生活は質素で、ゼミ生を呼ぶときか旅行へ行く時くらいしかお金は使わない。
夏休みに親子水入らずでサントリーニ島へ行くのが恒例で、実はその中に自分も入れないかと思っていたこともある。
だが、それは出来なかった。
教授は百合と２人の時間を何より大切にしていたから。