目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「一色さん?」

秘書課室に誰もいないのを確認しながら、小声で話しかけてくる。

「はい。何か?」

俺も何故か小声で返した。

「今日、空いてます?」

「はぁ……ええ、大丈夫ですが。どうかしたんですか?」

「お話があるんです」

話……。
彼女が仕事の話を外ですることは考えにくいし、悩みなどありそうにない。
だとすれば、これは単純に食事にでも誘っているのだなと考えた。

「いいですよ?どこで?」

頷いて返すと、彼女は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、新しく駅前に出来たワインバーでどうかしら?時間は6時くらいで……」

「え?待ち合わせですか?同じ職場にいるのに?」

あまりの不自然さに思わず聞いた。
効率が悪いと思うんだが?

「だって、変な噂が立ったら一色さんが困るでしょう?」

「あ……ああ。なるほど」

そういうことか。
だが、そこまで気が回るなんてやはり出来る女だな、彼女は。
俺はすっかり感心して警戒を解いた。
もともとそんなに警戒心はなかったが、綺麗な女にはウラがある!と断言する友人のせいで、少々慎重になっていたのだ。

「相島さん。気にすることはありません。一緒に行きましょう」

「いいんですか?」

遠慮がちに答える彼女に、俺は笑って頷いた。
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