目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「じゃあ、成立ね!乾杯しましょ?」

彼女は手元のワインを持ち上げたが、俺はそれを止めた。

「待て。どうせなら店で一番いいやつを開けないか?」

「素敵!!景気がいいわね!」

と言うと、目でウェイターを探し、指で呼び寄せる。
そして「この店で一番高いワインを開けて!」と指示した。
程なくウェイターがワインを持ってきて、彼女がラベルを確認して頷く。
慣れた手付きのウェイターは、ほんの短い時間でワインを開けた。

「じゃあ、私達の未来に」

「俺達の未来に」

軽い音がして、ワイングラスが揺れた。
グラスの向こうに微笑む彼女を見ながら、俺はワインを一口流し込む。
一番高いワインは確かに深みがあり高級な味がしたが、それが旨いとは思えなかった。
どこかで、旨いワインを飲んだことがあったはず……暫く考えたが、思い出せない。
まぁいいさ。
ワインの味なんてどれも一緒だ。
思い出すのを諦めた途端、何かが心から消えた。
それが、大切なものだと、その頃の俺には全くわかっていなかったのだ。
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