目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「そうなの?……ごめんなさい。覚えてなくて……」

「いいえ。奥様のせいではありませんから」

「でも、階段から落ちるなんて、どんくさいでしょう?」

「階段から落ちる?」

不審そうな顔をした三国さんが、私を覗き込んだ。

「ええ、そうなのでは?」

詳細は聞いていないけど、蓮司さんや医者は階段から落ちたと言っていた。
でも……どこの階段だとか、どうして落ちたのかは聞いてない。

「……ええ。間違ってはいません。実際階段からは落ちましたから。まぁおそらく……詳しく話していないのは、奥様の体調を考えて、ということでしょうね」

三国さんは言葉を慎重に選びながら言った。
それは、欺こうとかいうのではなく、純粋に心配してのことだとわかる。
この人は、欺くなんて卑怯なことしない人だ、と、何故だか強く感じていたからだ。
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