目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「それなら私も、蓮司さんが話してくれるまで待ちますね。記憶の方も戻ってませんし、気長にのんびりするつもりです」

そういうと、三国さんはティーカップを置いて、体をこちらに向けた。

「奥様。本当にご無事で良かった。あの日、奥様が事故に遭われて病院に運ばれてから、社長の取り乱し方は酷かった……ずっと着のみ着のまま、食事も取らず……」

その話を聞いて、私は病院で目覚めた時のことを思い出した。
蓮司さんは、ヨレヨレのスーツを着てボサボサの髪をしていた。
目の下にクマを作って、頬も痩けていて……。

「ごめんなさい。心配をかけてしまったみたいで……」

申し訳なさそうに俯くと、三国さんは私の両腕を掴み、ぐっと身を乗り出した。
そして、ぶんぶんと頭を横に振り言った。

「謝らないで下さい。奥様は何も悪くない。悪いのは……」

「悪いのは……?」

復唱すると、三国さんはハッとして口をつぐんだ。
あ、これは、私が聞いてはいけないことだったんだ、と思った。
普段、失言などしないような人が、こんな風に口を滑らせるのにはわけがあるのだろう。
どうしても許せなくて感情がコントロールできなかったとか。
現に、彼女の目には静かな怒りが見える。
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