俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
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葵羽は遠い目をしながら、昔の事をゆっくりと思い出しながら話してくれた。話しはとても辛いはずなのに、彼は穏やかに話してくれた。
まるで他人事のようにも感じてしまう。
けれど、それが彼が自分を守る方法なのだとも彩華はわかっていた。
「兄はその後姿を消しました。2人探しても見つからず、警察に届けていますが……まだ見つかっていません。……ですが、海が真下に見える崖沿いに兄の車が残っているのを見つけてくれました。それと、兄の自室から『2人ともごめんな。愛しているよ。』と言う手紙が置いてありました。………きっと私と話をした次の日の朝早くに兄は自ら命を絶ったのだと思います」
葵羽は目を伏せて、そんな悲しい話しをしてくれた。大切な兄が辛い経験から命を落としてしまう。だからこそ、葵羽は兄を忘れないために指輪をしていたのだろう。
それが皮肉にも兄が命を落とす原因となった女性とお揃いにする予定だった、結婚指輪だった。
葵羽の左薬指に光る指輪を見つめると、葵羽は少し苦笑をした。
「そんな事があったのですね………」
「楽しい話じゃなくてごめんなさい。………兄は大切な人だったし、兄が選んだ人を大切にしたいと思ったんです。だからこそ、そんな女性が許せなかったし、そんな風にする事が信じられなかったんです。………だから、それから女性と言うだけで苦手意識を持ってしまいました。だからこそ、話し方もこんな風に他人行儀になってしまったり、信じられなかったりしてしまって」
「だから、仕事の事を話せなかったり、自宅を、教えられなかったのですね」
「そうですね………私は怖いのです。兄のように傷つくのが怖かったですし、あんな思いをしたくなかったのです」
葵羽の手がギュッと強く握りしめられるのがわかった。彩華は変わらずに彼の手に優しく触れる。けれど、葵羽の体には力が入ったままだった。