前髪
「あの時は本当に手元が狂って…」
「わかるよ、わかるわかる。でもね、あの見事なまでのアシンメトリーをわたしは一生忘れないよ」
確かに去年興味本位で自分で前髪切った時、これでもかというくらい慎重に切ったのに、最終わざとかと思うくらい前髪が斜めになった。
笑わないでね、とメッセージで前置きまでして登校したのに、私の顔を見るなり美里は腹がよじれるほど笑っていた。
あの時の屈辱と一週間まともに前を向いて歩けなかった辛い日々を思い出すととてもじゃないけど自分で切ろうなんて気持ちはなくなっていく。
「マスキングテープで印つけて真っ直ぐ切るのってどうなのかな。さすがに曲がらなそうじゃない?」
「逆に難しそう!なんならわたしが切ってあげようか」
美里が本気半分でちょきちょきと鋏のジェスチャーをする。
その瞬間、先日授業の一環として行われたテディベア作りを思い出し、ぞっとした。
彼女の手によって誕生した熊でも犬でもネズミでもない丸い耳が二つだけついた謎の生き物、あれを満足そうに見せつけてきた時は恐怖を感じたものだ。
あの気の毒な物体のことはわたしだって一生忘れないつもり。
多分私たちは不器用なところで気が合って友達になれた節があると思う。
「いい。大丈夫。それだけは大丈夫」
申し出は丁重にお断りする。
と、言ってもだ。
うちの家系はてんで不器用で母に頼むにも父に頼むにもまともな仕上がりになる気がしない。
本人達もそれを自覚しているのでわたしの髪は幼稚園の頃から母の行きつけの美容室で切ってもらっている。
お小遣いの前借りも考えたけど、今月分のお小遣いが支給されたのはつい3日前。
その翌日には美里と隣町のデパートでショッピングをしてしまい、その半分以上を一瞬で失った。
少しは残しておかないと、今後のお昼代が怪しい。
ちなみにここで追加のお小遣いなんてお願いした暁には、お金の使い方に厳しい母は間違いなく鬼の如く怒る。
最悪基本金を減額されかねない。
八方塞がり。
「もう終わりだ…」
絶望だ。世紀末だ。
「わかるよ、わかるわかる。でもね、あの見事なまでのアシンメトリーをわたしは一生忘れないよ」
確かに去年興味本位で自分で前髪切った時、これでもかというくらい慎重に切ったのに、最終わざとかと思うくらい前髪が斜めになった。
笑わないでね、とメッセージで前置きまでして登校したのに、私の顔を見るなり美里は腹がよじれるほど笑っていた。
あの時の屈辱と一週間まともに前を向いて歩けなかった辛い日々を思い出すととてもじゃないけど自分で切ろうなんて気持ちはなくなっていく。
「マスキングテープで印つけて真っ直ぐ切るのってどうなのかな。さすがに曲がらなそうじゃない?」
「逆に難しそう!なんならわたしが切ってあげようか」
美里が本気半分でちょきちょきと鋏のジェスチャーをする。
その瞬間、先日授業の一環として行われたテディベア作りを思い出し、ぞっとした。
彼女の手によって誕生した熊でも犬でもネズミでもない丸い耳が二つだけついた謎の生き物、あれを満足そうに見せつけてきた時は恐怖を感じたものだ。
あの気の毒な物体のことはわたしだって一生忘れないつもり。
多分私たちは不器用なところで気が合って友達になれた節があると思う。
「いい。大丈夫。それだけは大丈夫」
申し出は丁重にお断りする。
と、言ってもだ。
うちの家系はてんで不器用で母に頼むにも父に頼むにもまともな仕上がりになる気がしない。
本人達もそれを自覚しているのでわたしの髪は幼稚園の頃から母の行きつけの美容室で切ってもらっている。
お小遣いの前借りも考えたけど、今月分のお小遣いが支給されたのはつい3日前。
その翌日には美里と隣町のデパートでショッピングをしてしまい、その半分以上を一瞬で失った。
少しは残しておかないと、今後のお昼代が怪しい。
ちなみにここで追加のお小遣いなんてお願いした暁には、お金の使い方に厳しい母は間違いなく鬼の如く怒る。
最悪基本金を減額されかねない。
八方塞がり。
「もう終わりだ…」
絶望だ。世紀末だ。