前髪
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きっかけは、明後日行われる身嗜み検査にある。

全校集会のあと、学年ごとに女子と男子別々で一列に並ばされ、他の学年部の先生に頭から足の先までチェックされるのだ。

女子で見られるところといえば、化粧をしていないか、ピアスは空いていないか、爪はきちんと整えられているか、スカートの長さは適切か、学校指定のインナーを着ているか、などあげるとキリがない。

男女共通して一番引っかかりやすいのが頭髪。

染髪していないかは勿論、女子であれば流石に肩上とまでは言われないものの制服の胸元のポケットよりも髪の長い人は切るか結ぶか。前髪は目にかかっていないか。
指摘されるとその場でゴムやピンを渡され、一週間毎日担任にチェックされる。
つまり前髪なんかが引っかかると切るまでデコ出し。
男子だとちょっとでも髪が伸びている子は否応なしに散髪させられる。
その上、ツーブロックや刈り上げも禁止。
ここは軍隊かなにかか、と一部の生徒から声が上がるけれど、本当にその通りだと思う。

田舎、似非進学校特有の謎の厳しさ。

大体の先生はサラッと流し見て、ちょっと長いくらいは見逃してくれるのだけれど、今回の検査は鬼と知られる体育教師の松本先生らしくみんな怯えている。

それは例に漏れず私もそう。
友人からの指摘に半端泣きそうになりながら、机に頬をべたりとくっつけて嘆いていた。

「…やっぱり怪しいよね」
「怪しいよ。前髪キケンだよ。止めるか切るかしないと居残りさせられるよ。指摘受けたら切るまで毎日監視されてさ、おっそろしいことになる」

向かい合わせにした机の反対側でのんきにパンを齧るのは中村美里(なかむら みさと)。
高校に入ってから友達になった。
ちょっと大雑把なところがあるものの、その豪快さが心地いい気の良い女の子。
バレー部に入っている彼女はさっぱりとしたショートカットで前髪もオン眉。
そもそもバレー部の顧問が厳しいので指摘されるところが全くない。

今の私の前髪はというと、美容室のお任せで、真っ直ぐ過ぎず重た過ぎずのシースルーバング。
ただ乾かして下すだけ。
休日は軽めのオイルをつけて束感を出すだけで"やってますよ"感が出るので気に入っている。
というのは置いといて、それが若干伸びてきているのが問題。
松本先生の検査では前髪を巻いて誤魔化すなどということは許されないらしく、その方法では回避できない。

「梓なんかさぁ、帰宅部じゃん。あいつ帰宅部に厳しいんだよね」

パックのジュースをズルズルすする美里の追い討ちにガバッと顔を上げる。
そう言えば松本先生は大の帰宅部嫌い。
体育の授業では何かと帰宅部ばかり指摘を受けて、帰宅部からは特に嫌われている。
二年になってから体育の先生が変わったからすっかり忘れてた…!

「もう絶対アウトじゃん。もうやだ、とめるのやだ、デコ出しやだ、でも切りに行くお金ない。」
「かわいそうだけど、自分で切るのは、あー、ないよねえ」

なにを思い出したのか苦笑いをする。
まあ検討はつくけど。
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