綴る本
「そりゃこのハーメリンスの国王は民を第一に考える素晴らしいお方だからだな。他の国の王と比べる迄もねえな」
自分のことのように誇らしげに語るオヤジ。そう様子からは民が王を慕っているのがすごくわかる。余程このハーメリンス国の王は民衆に好かれているようだ。
だが――
「素晴らしい王なのはわかったが、その王が戦争の為に兵士の志願をしていると聞いた。善き王なら戦争など、仕掛けたりするのか?」
――民に慕われていようとも、戦争を仕掛けようとするのは何処も同じか。
青年はそう思っている。慕われているからといって結局の所、戦争する際に民の反対が無いよう事前に根回しするような国など多々ある。表では平和を願い正義を抱き、裏では虎視眈々と自分の欲望、野望、私腹を肥やすために動いている。世界が違おうとも国が違おうともやはり王の位に就くものは変わらない。
オヤジが渋い表情で顎の無精髭を擦りながら青年を見る。
「綺麗な兄ちゃん、確かに善き王なら戦争なんか仕掛けたりしねえな。だけど、そうも言ってられねえ」
青年の流麗な眉が下がる。落としていた視線をオヤジに向けた。「どういうことだ?」
「知ってる人は少ないが、ランプシュールとの国境でいざこざがあるのを知ってるな?」
青年はオヤジの言葉に頷いた。ハーメリンス国に来る前に風の噂で聞いている。いざこざが五年も続いているのを。
オヤジが声を落として続けた。「俺の幼馴染みの兵士に聞いたんだが、それが戦争を仕掛ける本当の原因じゃねえらしい。詳しくは知らねえがぼやいてた、姫がどうのこうのとかな」
「姫……? ハーメリンスの先代は今の王しか産んでいないんじゃないのか?」
オヤジは唸りながら首を傾げた。その様子から姫がこのハーメリンスにはいないのことがわかる。あくまでも国民は知らないことが。
「居ないはずなんだが、よく分からねえ」
そう言ってオヤジは他の客の注文を受け、厨房に消えていった。 青年は少し冷えたコーヒーを飲み干し、カウンターに肘を置いて手を組んだ。このハーメリンス国に姫がいるのかいないのかはっきり分からない。ここに来る迄は姫がいるとのことは一度として聞いていない。もし居たとしたてあたかも姫が居ないかのように振る舞うのかが、理解しえない。自分が王の血筋ならわかるかもしれないが、それは詮無きことだ。
自分のことのように誇らしげに語るオヤジ。そう様子からは民が王を慕っているのがすごくわかる。余程このハーメリンス国の王は民衆に好かれているようだ。
だが――
「素晴らしい王なのはわかったが、その王が戦争の為に兵士の志願をしていると聞いた。善き王なら戦争など、仕掛けたりするのか?」
――民に慕われていようとも、戦争を仕掛けようとするのは何処も同じか。
青年はそう思っている。慕われているからといって結局の所、戦争する際に民の反対が無いよう事前に根回しするような国など多々ある。表では平和を願い正義を抱き、裏では虎視眈々と自分の欲望、野望、私腹を肥やすために動いている。世界が違おうとも国が違おうともやはり王の位に就くものは変わらない。
オヤジが渋い表情で顎の無精髭を擦りながら青年を見る。
「綺麗な兄ちゃん、確かに善き王なら戦争なんか仕掛けたりしねえな。だけど、そうも言ってられねえ」
青年の流麗な眉が下がる。落としていた視線をオヤジに向けた。「どういうことだ?」
「知ってる人は少ないが、ランプシュールとの国境でいざこざがあるのを知ってるな?」
青年はオヤジの言葉に頷いた。ハーメリンス国に来る前に風の噂で聞いている。いざこざが五年も続いているのを。
オヤジが声を落として続けた。「俺の幼馴染みの兵士に聞いたんだが、それが戦争を仕掛ける本当の原因じゃねえらしい。詳しくは知らねえがぼやいてた、姫がどうのこうのとかな」
「姫……? ハーメリンスの先代は今の王しか産んでいないんじゃないのか?」
オヤジは唸りながら首を傾げた。その様子から姫がこのハーメリンスにはいないのことがわかる。あくまでも国民は知らないことが。
「居ないはずなんだが、よく分からねえ」
そう言ってオヤジは他の客の注文を受け、厨房に消えていった。 青年は少し冷えたコーヒーを飲み干し、カウンターに肘を置いて手を組んだ。このハーメリンス国に姫がいるのかいないのかはっきり分からない。ここに来る迄は姫がいるとのことは一度として聞いていない。もし居たとしたてあたかも姫が居ないかのように振る舞うのかが、理解しえない。自分が王の血筋ならわかるかもしれないが、それは詮無きことだ。