綴る本
先程の話では、オヤジの幼馴染みの兵士は姫の存在を知っていることになる。姫が居ると仮定して。その存在を知るにはそれ相応の地位が必要になるはずだ。
青年は俯いていた顔を上げて瞳を閉じた。
「後一年……か……」
青年は億劫そうに呟いた。一年間何処かを拠点に今は過ごすしかない。経たないかぎり先に進めない。だから何処かで衣食住を揃えられる場所、ハーメリンス国の兵士を志願しにきたのだった。
青年は自嘲するような笑みを浮かべた。
戦争するお陰で兵士となり、衣食住が安定する。凄く簡単に手に入る反面、いつ死が訪れるとも知れない。王の欲に付き合わされる兵士が、今はそれが自分にとって楽な選択肢である。全ては一年間だけのこと。
カウンターの席を立ち、沢山の視線を感じながら青年は酒場から出た。
太陽の光に目を細め、王城へと続く通りを見つめる。人の波の流れが絶えることはない。この人込みの中、今から歩くことを想像するだけで嫌になる。
ゆっくりと青年は歩きだし人込みに紛れた。
肩が当たり、足が踏まれ、手が挟まれ、鬱陶しいことこのうえない状況に青年は顔をしかめた。
町の中心地にある噴水広場に入るなり、人が疎らになるのと同時に怒声が耳に飛び込んできた。こんな真っ昼間から公共上よろしくない声にうんざりしそうになる。声の方を向くと、三人の男性と一人の少女が喚いていた。その周りには仲裁に入ることなく我関せず遠巻きに眺めている人たちがいる。
青年もまた我関せずに歩きだそうとすると、偶々少女がこちらをちらりと見た。目が合い、青年は既視感に襲われた。瞬きをしてもう一度見るが、やはり変わらない。見間違うはずのない容姿。
青年は思わず呟いていた。
「……柚燐……」
しかし、容姿は同じだが髪色が違いすぎる。柚燐とは異なる鮮やかな桜色の髪色は、知っている柚燐とは似ても似つかない。それに彼女はこの世界にはいないはずだ。だから、桜色の髪の少女は別人になる。
長く見つめていたらその女性がこちらを見て呼び掛けてきた。
「そこの青年! この人たちに言ってあげてよ! 認めなさいって!」
我関せずに撤しよう決めていたがもう遅かった。いざこざの飛び火が青年へと降り掛かってくる。足を止めて見つめていたのが悪かったのだろう。自業自得だなと、胸中で思った。
青年は俯いていた顔を上げて瞳を閉じた。
「後一年……か……」
青年は億劫そうに呟いた。一年間何処かを拠点に今は過ごすしかない。経たないかぎり先に進めない。だから何処かで衣食住を揃えられる場所、ハーメリンス国の兵士を志願しにきたのだった。
青年は自嘲するような笑みを浮かべた。
戦争するお陰で兵士となり、衣食住が安定する。凄く簡単に手に入る反面、いつ死が訪れるとも知れない。王の欲に付き合わされる兵士が、今はそれが自分にとって楽な選択肢である。全ては一年間だけのこと。
カウンターの席を立ち、沢山の視線を感じながら青年は酒場から出た。
太陽の光に目を細め、王城へと続く通りを見つめる。人の波の流れが絶えることはない。この人込みの中、今から歩くことを想像するだけで嫌になる。
ゆっくりと青年は歩きだし人込みに紛れた。
肩が当たり、足が踏まれ、手が挟まれ、鬱陶しいことこのうえない状況に青年は顔をしかめた。
町の中心地にある噴水広場に入るなり、人が疎らになるのと同時に怒声が耳に飛び込んできた。こんな真っ昼間から公共上よろしくない声にうんざりしそうになる。声の方を向くと、三人の男性と一人の少女が喚いていた。その周りには仲裁に入ることなく我関せず遠巻きに眺めている人たちがいる。
青年もまた我関せずに歩きだそうとすると、偶々少女がこちらをちらりと見た。目が合い、青年は既視感に襲われた。瞬きをしてもう一度見るが、やはり変わらない。見間違うはずのない容姿。
青年は思わず呟いていた。
「……柚燐……」
しかし、容姿は同じだが髪色が違いすぎる。柚燐とは異なる鮮やかな桜色の髪色は、知っている柚燐とは似ても似つかない。それに彼女はこの世界にはいないはずだ。だから、桜色の髪の少女は別人になる。
長く見つめていたらその女性がこちらを見て呼び掛けてきた。
「そこの青年! この人たちに言ってあげてよ! 認めなさいって!」
我関せずに撤しよう決めていたがもう遅かった。いざこざの飛び火が青年へと降り掛かってくる。足を止めて見つめていたのが悪かったのだろう。自業自得だなと、胸中で思った。