綴る本
 レイミィーが肩当てをユラに向かって下から放り投げた。それは弧を描きユラの手に納まる。
「それを右肩に装備してから戦いのルールを説明するわよ」
 お互いに装備したことを確認して、レイミィーは続ける。
「まず、その実がどのように破裂するか確かめましょう。実の存在を知っていても、直に破裂する瞬間を見た人は少ないようよ。ユラもそうよね?」
 肯定するようにユラは頷く。
「それじゃあ、ルージュ。力一杯壁に叩きつけてくれるかしら」
 ルージュは自身の手の平から零れ落ちそうなランゴの実を握り締め、壁目がけて振りかぶり勢い良く振り下ろした。手から放たれたランゴの実が一直線に壁に迫る。 壁に衝突する――
 ――瞬間。
 耳を劈くような破裂音が訓練所内に大音量に響いた。その直後、音が引いて静寂が空間を埋め尽くしていく。
 この破裂音の影響で四人の内、ルージュとフミールは予め耳を塞ぎ対処していたようだが、それでも十分ではなかったようだ。歪んだ顔がそれを証明していた。
 ユラは破裂音の残滓が耳にこびり付き、激しい耳鳴りに不愉快な表情を浮かべている。
 三人はそれぞれその影響で似たり寄ったりな感情を抱いているだろうが、一人レイミィーだけが涼しげな顔で満足そうに微笑んでいた。
 耳から円柱の白い綿素材で精製された耳栓を取出し、胸ポケットに入れた。それに、三人が気付いて憎らしそうな眼差しをレイミィーに送る。
「そんな目で見ないでくれるかしら。備えあれば憂いなし、よ」
「………」
「三人共黙らないで頂戴よ」
 レイミィーが肩を竦めて苦笑する。
「まあいいわ。それじゃあ、ルールの説明をします」
 ユラに分かりやすいように、変わらず怪しくも鈍く暗い光を放っている肩当てを手の甲で叩いてみせた。
< 29 / 38 >

この作品をシェア

pagetop