綴る本
思っていることを顔には出さないよう表情の変化は特に気を付けている。
それなのにどうして……
胸中の思いを口にはせずに、淡々と言葉を並べた。
「確かに、そうよ。魔法使いなら特に魔法に対しての警戒は人一倍あるはず。常に避けることを前提にして戦闘しているのに、この訓練では当たっても大丈夫とはいえ、その染み付いた観念は簡単には拭えたりしないはずなのよ、普通はね」
普段していることを今日から変えろ、と言われても戸惑い長く逡巡したのちに適応しようとするはずなに、この形成過程をすっ飛ばして観念を塗り替えたりすることをユラはしている。
驚嘆するとともに畏怖を感じざるを得ない。例外に漏れず簡単にそうすることが出来なかったから軽い嫉妬が沸く。造作もなく意識改革をするユラに。
レイミィーは落ち着けと自分に言い聞かせながらユラを見据えた。
「まあいいわ、あなたがどのような意思決定をしていようと」
「そうか……。Eの回数があと九。夜の時間も押していることだ、ここからは様子見はしない」
この言葉を切りにユラが行動を開始した。
「《赤手は暴虐の前触れ》」
レイミィーの足元の床からジュボジュボと、沸騰する水のごとく赤い液体が沸き上がり、血のように赤く周囲を染め上げていく。それが徐々に脈動する無数の手の形を作り、レイミィーの足首を捕らえた。
気持ち悪い手の感触に身も毛もよだつ。
赤い手を振り払うため言葉を紡ぐ。
「《風は旅人を擁護する》」
途端、足首を捕らえていた血のように赤い手が爆ぜた。血肉のような手がバラバラに弾け飛ぶが、ゴポゴポと蠢きながら欠片が一塊に集まり脈動する手を再度形成し直す。
レイミィー足首を捕らえていた箇所では、力強く気流が膝まで覆うように渦巻いていた。
足に力を込めて床を蹴った。ふわりと体が浮かび上がり、気流を纏うレイミィーは大地という枷を失い空という自由を得る。
下には脈動する無数の赤い手が、あたかも地獄へと誘う死者達の手かと錯覚してしまいそうになる。
それに意識を向け過ぎていたため、ユラに行動を許してしまった。
「《愚者は傀儡するが己》」
ユラの言葉が耳朶を打った。
「――くっ!」
レイミィーの苦渋に歪む顔は焦りしか映さない。
それなのにどうして……
胸中の思いを口にはせずに、淡々と言葉を並べた。
「確かに、そうよ。魔法使いなら特に魔法に対しての警戒は人一倍あるはず。常に避けることを前提にして戦闘しているのに、この訓練では当たっても大丈夫とはいえ、その染み付いた観念は簡単には拭えたりしないはずなのよ、普通はね」
普段していることを今日から変えろ、と言われても戸惑い長く逡巡したのちに適応しようとするはずなに、この形成過程をすっ飛ばして観念を塗り替えたりすることをユラはしている。
驚嘆するとともに畏怖を感じざるを得ない。例外に漏れず簡単にそうすることが出来なかったから軽い嫉妬が沸く。造作もなく意識改革をするユラに。
レイミィーは落ち着けと自分に言い聞かせながらユラを見据えた。
「まあいいわ、あなたがどのような意思決定をしていようと」
「そうか……。Eの回数があと九。夜の時間も押していることだ、ここからは様子見はしない」
この言葉を切りにユラが行動を開始した。
「《赤手は暴虐の前触れ》」
レイミィーの足元の床からジュボジュボと、沸騰する水のごとく赤い液体が沸き上がり、血のように赤く周囲を染め上げていく。それが徐々に脈動する無数の手の形を作り、レイミィーの足首を捕らえた。
気持ち悪い手の感触に身も毛もよだつ。
赤い手を振り払うため言葉を紡ぐ。
「《風は旅人を擁護する》」
途端、足首を捕らえていた血のように赤い手が爆ぜた。血肉のような手がバラバラに弾け飛ぶが、ゴポゴポと蠢きながら欠片が一塊に集まり脈動する手を再度形成し直す。
レイミィー足首を捕らえていた箇所では、力強く気流が膝まで覆うように渦巻いていた。
足に力を込めて床を蹴った。ふわりと体が浮かび上がり、気流を纏うレイミィーは大地という枷を失い空という自由を得る。
下には脈動する無数の赤い手が、あたかも地獄へと誘う死者達の手かと錯覚してしまいそうになる。
それに意識を向け過ぎていたため、ユラに行動を許してしまった。
「《愚者は傀儡するが己》」
ユラの言葉が耳朶を打った。
「――くっ!」
レイミィーの苦渋に歪む顔は焦りしか映さない。