愛され秘書の結婚事情

「医務室で横になっていたんですけど、私がグズグズ泣くせいで十倉さんにも呆れられて、ちょっとトイレで顔を洗って来なさいって怒られて。それでトイレから戻ったら、桐矢さんが血相を変えて医務室にいらしたから、本当に驚きました」

「それは……だから、事故のせいで泣いていたんじゃなくて、僕と会えなくなるから、泣いていたってこと……?」

「はい。それなのに皆さん、私が事故を目撃したせいでショックを受けていると勘違いされて……。でも理由を話すわけにはいかないし、早退までさせていただいて、とても心苦しかったです……」

「……嘘だろ」

 思わず独り言を洩らし、悠臣は呆然とフロントガラスの先を見つめた。

 赤いテールランプの波のその先に、彼女が待っているかと思うと、たまらないもどかしさを感じた。
< 124 / 299 >

この作品をシェア

pagetop