愛され秘書の結婚事情

「今日、私、ずっと考え事をしていて。電車を降りてからも、ぼんやりしたまま歩いていて……。いつもなら会社目指して真っ先に電車を飛び出していたんですが、危うく乗り過ごしかけるくらい、本当にずっとぼんやりしていて……」

「…………」

「でもそのお陰で、横断歩道に出るタイミングも遅れたんです。もしいつものペースで歩いていたら、おそらく私も、事故に巻き込まれていたと思います」

「そうだったのか……」

 それは気分が悪くなって当然だ、と悠臣は思った。

「それでもし、自分があの事故に巻き込まれて、万一命を落とすようなことがあったらって想像して……」

「うん……」

「もう二度と、桐矢さんに会えないんだなぁって思って……」

「……え」

「それはすごく辛いなぁって……。だけど会社を辞めても結果として同じだなって思って。事故のショックもありましたけど、気分が悪いというよりは、そちらのショックで落ち込んでいたんです。それを私の顔色が悪いからって、室長が無理やり医務室に連れて行って……」

「そ……」

 あまりに予想外の言葉を聞いて、悠臣の脳はフリーズ状態になった。
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