愛され秘書の結婚事情
一瞬憤慨しかけた悠臣だが、次の彼女の言葉を聞いて表情を変えた。
七緒はちょっとうつむいて、「だって……」と恥ずかしそうに言った。
「仕事中、あなたの横顔を見ているだけでドキドキするのに、手が触れ合ったりしたら、私、とても仕事どころじゃなくなります。キスやハグなんてしたら、ポーッとして心ここにあらずになって、とんでもないミスをするかもしれません」
顔を朱に染めて、七緒は小さな声で続けた。
「そんなの困ります。秘書失格だって、サブマリンをクビになっちゃう……」
「な……」
あまりに予想外の言葉を聞き、悠臣は廊下に座り込んだまま呆然とした。
「今だって、仕事モードになるのが大変なんですよ? 業務から離れるとすぐに悠臣さんのことばかり考えちゃって、帰りのバスでも一人でニヤニヤして不審者みたいだし。秘書は業務時間外も色々やるべきことがあるのに、今はあなたと過ごすことが最優先で、ネットでの情報収集もサボってるし……。だから今日のお昼休みは、同じ秘書室の子達に人気のお店と商品のリストを……」
そこまで言いかけた七緒は、いきなり凄い勢いで抱き寄せられ、言葉を途切れさせた。