愛され秘書の結婚事情

「央基は……私の知らない実家のことを伝えに、来てくれたんです」

 覚悟を決めて、七緒は顔を上げた。

「今から恥ずかしい話をお聞かせしますが、よろしいでしょうか」

「うん、いいよ。話して」

 そう答えて片膝を立てた悠臣は、すぐに何かに気付いて「あ、でもちょっと待って」とベッドから離れた。

 彼はクローゼットから二枚のガウンを持って来て、その一枚を七緒に渡した。

「昨日母から貰った、フランス土産だよ。四月とはいえ、今夜は冷えるからね。はい」

 悠臣は晶代からプレゼントされた、男女ペアのナイトガウンの一つを七緒の肩に掛けてやった。

 変わらぬ優しさを示されて、七緒は今にも泣きたくなったが、そこをぐっと堪えて「ありがとうございます」とだけ言った。

「央基が私に教えてくれたことは、二つです。一つは、二歳下の弟の話でした」

「ああ、……竜巳君だっけ」

「はい」

 すでに悠臣には、七緒に弟がいることは話している。

 だがその弟が問題ばかり起こすトラブルメーカーで、両親にとって頭痛の種であることまでは話していない。
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