愛され秘書の結婚事情

 フゥ、と短く息をつき、七緒は「ちょっと言い過ぎたかな……」と思った。

 しかし曖昧な態度を取り続ける方が、もっと央基に失礼だろうと思い直す。

 その時。

「世界一イイ男か……」

 突然背後で声がして、七緒は「きゃっ」と小さく悲鳴を上げた。

 振り返ると、戸口に悠臣が立っていた。

 リビングで仕事の電話をしていたはずの彼がいて、七緒は目を丸くした。

「悠臣さん……いつからそこにいたんですか」

「一年悩んでも答えは変わらないと思う、の辺りから」

 その返事に、七緒は「嫌だ……」と顔を赤らめた。

「立ち聞きなんてお行儀が悪いですよ」

 悠臣はふらりと部屋の中に入り、電話を手にした七緒を横から包むように抱き締めた。

「その行儀の悪さのお陰で、すごく嬉しい言葉が聞けた。ね、世界一イイ男って誰のこと?」

 七緒はクスクス笑いながら、「今、目の前で、悪戯っぽい顔で笑っている人です」と答えた。

 その返事に悠臣はニッコリ笑い、同様に笑顔の彼女の頬にキスをした。
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