愛され秘書の結婚事情

「こら」

 いきなり真横から声がして、七緒はハッと現実に戻った。

 慌てて隣を向いた七緒の眉間を、悠臣が右手の人差し指でツンと突く。

「ここ、シワが寄ってる。これからご両親に会うっていうのに、なんて不景気な顔をしているんだ」

「す、すみません……」

 七緒は赤い顔でおでこを押さえて詫びた。

 出雲空港からタクシーで実家に向かう中途。

 隣に悠臣がいたことさえ忘れていた自分に、七緒はハァと嘆息した。

(まずいなぁ……。かなりナーバスになってる……)

 今回の急な帰郷は昨日のうちに母親に伝えたが、電話口の路子もさすがに喜ぶより戸惑っていた。

「ご両親とも、今日は在宅なんだろう?」

「はい。あと、弟の竜巳もいます……」

 そう答えて、七緒は気まずい思いで悠臣の顔を見た。
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