愛され秘書の結婚事情

「あ、竜巳。ただいま。久しぶり」

 そこで竜巳はようやく、姉の声に釣られて七緒を見た。

 それでまた彼は「な!」と声を上げた。

 目の前に立つ女性は、確かに姉の声をして弟を呼んだが、記憶にある姿とまるで違っていた。

「姉ちゃん、整形したのかっ!」

「は!?」

 信じられない弟の第一声に、七緒は心底呆れた顔をし、悠臣は「ブッ」と噴き出した。

「するわけないでしょ! 何言ってるのアンタ!」

「じゃあちょっとスッピンになってみろ!」

「今日中に東京に戻るんだから、スッピンになんてならないわよっ」

 いきなり玄関先で姉弟ケンカを始めた二人を、路子が呆れながら「これ、あなた達。やめなさい、みっともない」とたしなめる。

「ごめんなさいね。桐矢さん」

 路子に詫びを言われ、笑いを噛み殺していた悠臣は、笑顔で「いいえ」と答えた。
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