愛され秘書の結婚事情
悠臣を見て驚いたのは、路子や竜巳だけではなかった。
応接間で二人を待ちかねていた昌輝もまた、現れた悠臣を見てびっくりして言葉を失くした。
さらに彼から一歩遅れて現れた七緒を見て、ますます驚いた。
「初めまして。桐矢悠臣と申します。今日はお時間を取っていただき、ありがとうございます」
良く通る美声に挨拶を受け、昌輝はしかめ面をキープすることも忘れて、「う、うん……」と返事をするのが精一杯だった。
しかしその後、広い応接間の下座に七緒と並んで座り、悠臣は両膝の上に手を乗せ、じっと黙っていた。
悠臣の無言の気迫に圧され、昌輝と竜巳も言葉を発することが出来ずにいた。
一体どうしたのかと七緒が気にしていると、彼はその視線に気付いて、「まだお母さんが来られていない」と答えた。
そこに丁度、日本茶と菓子を盆に載せて、路子が現れた。
部屋の重い空気に驚く彼女に、七緒が慌てて立ち上がり、その手から盆を受け取った。
「お母さん。悠臣さんが、お母さんが来るのを待ってたの」
「え?」
「どうぞお母さんも、そちらにお座り下さい」
悠臣が昌輝の右隣を示し、路子は戸惑いつつもそこに腰を下ろした。