愛され秘書の結婚事情

 厳しい口調になって悠臣は言った。

「彼女は気にしていないフリをしたが、その顔は明らかに傷ついていた。あなたはあんなことをして、彼女がショックを受けるとは思わなかったんですか」

「それは……」

 央基は一瞬言葉に詰まったあと、「……そんなに、傷ついていたのか」と悠臣に訊ねた。

「ええ。しばらくは、一人になるたびに泣くでしょう」

「そんな、たかがキスくらいで……」

「男のキスと女のキスは違います。女性にとってその気のない相手にされるキスは、精神的レイプと同じことです」

「…………」

「……満足ですか。自分のものにならないからと、愛した女性を傷つけて」

「……そんなつもりはなかった」

「じゃあどんなつもりであんなことをしたんです。まさか、単に僕への当てつけでやった、ということはないですよね」

「…………」

 そのまさかだった央基は、返す言葉を失くして黙り込んだ。
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