愛され秘書の結婚事情
「はっきり申し上げるが、僕はあなたを殴りたい。そのくらい腹を立てています。けれどあなたがもし、本気で彼女を想っているのなら、自分で自分を殴るべきだ。あなたは今日、自らの手で彼女の恋人になる権利を放棄した。あなたは僕と同じリングに立つ資格がない」
「…………」
「申し上げたいことは以上です。それでは」
一方的に話を終え、悠臣は電話を切った。
塚川央基という男が、自分が調べた通りの男であるのなら、冷静になった今、彼は自分で自分の過ちに気付き、心底己の愚かさを悔やむだろう。そう思った。
そして彼のこの想像は外れていなかった。
悠臣との電話を終えた央基は、ためらいながらも七緒の番号に電話を掛けた。
もしかすると着信拒否をされているかも、と一瞬不安が胸をよぎったが、数コールののちに、七緒自身が「はい」と答えた。
「あの、俺だけど……」
相手が出てくれたことにホッとしつつ、央基は言った。
「その……怒ってるか……?」
「…………」
七緒は無言だった。
その沈黙が恐ろしくなり、央基は慌てて「ごめん!」と詫びた。
「あれはその、魔が差したっていうか、ちょっと俺、頭に血が昇ってってたっていうか……」
「うん」
七緒は短く答え、言った。
「……怒ってないよ。ただ、何をされても私の気持ちは変わらないから、もう央基とは会わない方がいいのかなって思ってる」
「そんな、七緒……」
「ごめん。何を言われても何をされても、私は央基とは結婚できない。私が結婚したい人は一人だけなの。わかって」
「……七緒」