愛され秘書の結婚事情

 そんな悠臣の秘書に配属された七緒は、「地味が服を着ていたら佐々田さんになりそう」と同僚のネタになるほどに、目立たず控えめな草食系女子だ。

 長いストレートの黒髪を後れ毛一本出さず纏め、紺か黒のリクルートスーツを着て、化粧は最低限。トレードマークは大きなフレームの黒縁眼鏡だ。

 この眼鏡ルックはなかなかにインパクトがあるのか、常務からも初日の挨拶の時に、「昔なんか、そういう眼鏡かけた女の子の出るアニメがあったよね」と声を掛けられた。

 それからしばらくの間、七緒の影のあだ名は「アラ●ちゃん」だった。

 世間が抱く女性秘書のイメージとはかけ離れた外見の彼女だが、入社時からこのスタイルを貫いている。

 それが許されるのも、元社長で現会長である隆盛の方針だ。

 自社は常に「世のならい」に背いて成長してきた。だから社員にも、「いかにも○○らしい」人間はいらない。

 だが個を出すなら結果も出してもらう。その自信があればいつでも入社試験を受けてもらう。

 七緒はこの社長の考え方に惹かれ、サブマリンの面接を受けた。
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