太陽に抱かれて

「ムッシュー」

 ああ、なんてことだろう。
 頭がジンとする。
 喉の奥が、胸が、じくじくと疼く。
 その繊細さに、熱っぽさに、潤んだ吐息が漏れてしまう。

 自分を見下ろす瞳は、自然と伏せた形になり、彼の憂いを帯びた色気を滲ませている。それすらも、今のももには麻薬だ。

 シモンはなにも言わない。それどころか、彼女の唇が開かれるのを待っていましたとばかりに、舌をねじ込んできた。
 後ろに仰け反る肩をやさしく掴まれ、逃げ場をなくしてしまう。

 どうして? ももは、噛み付くようなキスを受け入れながら思う。

 ——なぜ、彼は、こんなことを?

 だが、同時に思う。シモンのまなざしに、あの指先に、いつしかすべて奪われてしまいたいと思っていたのは、自分ではないか、と。


 ハイネックのリブニット越しに伝わるシモンの熱が、その大きな手のひらが、眠っていた細胞を呼び起こす。

「っ……は…………」

 厚い舌が口内を蹂躙する。手のひらが肩から滑り落ち、腕を模り、彼女の女性的な腰のラインをその手で描いていく。
 背すじが痺れる。腹の底がじくじくと熟していく。
 頭がくらくらする。
 ——すべて、溶けてしまいそうだ。

「ムッシュー、ロンベール」

 わずかに唇が離れた。熱い吐息が混じり合う。シモンの美しい瞳が、ももを見下ろしていた。黄色みがかった榛のあの怜悧な瞳には、今はまるで静かに獲物を狙う獰猛な獣のように、深い赤色が滲んでいた。
 ああ、これで、終わりではない。

「やめるなら今だ」

 だが、シモンは言う。冷静な口ぶりで、ももの呼吸を食べながら。彼の吐息が頬を掠める。

 ももはふるりとかぶりを振った。ほぼ、無意識だった。
 シモンの瞳が微かに鋭く細められる。
 その仕草さえもまるでひとつのギリシア彫刻のようで、目の奥がジンと震えた。

「きれい」

 うっとりと零したももの唇に、シモンが勢いよくかぶりついた。

「っ……ぁ…………はぁ、……」

 先ほどよりも激しい口づけに、ももは喘いでしまう。
 シモンの手のひらが肌を弄る。セーター越しに、ゆっくり、ねっとりと。暗闇に紛れてしまいそうな彩度の低い紫色に、シモンの浅く日に焼けた肌色がとてもよく映えていた。

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