ラヴシークレットスクール ~消し去れない恋心の行方


開かれた助手席のドア。

「立てるか?」

『なんとか大丈夫そうです。』


あたしは肩に荷物をかけたまま座席に手をついてよいしょと立ち上がった。
そして差し出された松葉杖を受け取り、2、3歩歩いてから入江先生のほうに振り返った。


午後9時。
自宅アパート前の駐車場。

やや離れた場所に立っている電灯の灯りでは
入江先生の表情をこの時もはっきりと捉えることはできなくて。
もう一度謝ったり、余計なことを言うよりも素直に御礼を口にするほうが適当だと思った。


『ありがとうございました。それじゃ、ここで失礼します。』

「荷物、持つよ。松葉杖で階段上がるの、初めてだろ?」


これも先輩の命令
・・・そんな気持ちも込められているような入江先生の口調。


『・・・・じゃあ、お言葉に甘えます。』

「ああ。」


彼の返事が聞こえてきた直後、自分の右肩に掛かっていた鞄が外されて、体がふわりと軽くなったような気がした。

早速、松葉杖をついて歩き、なんとか階段の下まで辿り着く。
ここまではよかった。
でも
問題はここからだった。


『・・・・・・・』


あたしの部屋は2階
階段を昇らなければ部屋には辿り着かない

松葉杖が先・・・?足が先?
入江先生に気付かれないように頭の中で必死に階段を昇る姿を想像するも

「手、貸そうか?」

さすがに一歩が出ないあたしの異変に彼が気が付かないはずはなかった。


入江先生のその声に
あたしは夕方、数学準備室から保健室まで移動した時のこと
・・・彼に抱きかかえられた時のことをふと想い出してしまった。


『また、抱っことか・・・・・そんなの・・申し訳な』


フッ!


隣から聞こえてきた。
ついこぼれてしまったような笑い声が。


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