ラヴシークレットスクール ~消し去れない恋心の行方



確かに声かけにくいかもね
忙しそうだし

「入江先」

「高島!」

八嶋クンが声をかけた相手の入江先生が
いきなりあたしを呼んだ。


『は、ハイ!』

「課題テストの打ち合わせするから、今から数学準備室、いい?」

『は、はいィ。』


どうやらその存在に気がついてもらえなかったらしい八嶋クンのことが気になったが、数学準備室のほうへ移動し始めた入江先生について行くことを優先した。

ズンズン前に進んでいく入江先生。
このまま置いていかれるのではと思ってしまうぐらい。


なんとか置いていかれずに数学準備室まで辿りついたあたし。

さっきまでの早足が別人だったかのように
窓際で外をじっと見つめたままの入江先生。



『入江先生?』

「・・・ああ。」

『課題テストって?』

「まだ、そんな時期じゃなかったな。」


振り返って苦笑いする入江先生。
すぐさま視線を外す入江先生。


なんかおかしい?
いつも涼しい顔している入江先生なのに
やっぱるなんか変だよ


『どうかしました?』


学年主任だったり
数学科のリーダーだったり
そういう新しい業務に忙殺されているのかも

あたしも担任という新しい業務が増えて
それをこなすのに必死だし


だから
入江先生もそうなんだって
勝手にそう思ってるけれど

実際はどうなんだろう?


「余裕がなくなってるかもな。」

『あ~、忙しいですもんね。』

「その余裕、じゃない。」

『どの余裕ですか?』

「・・・どんなだろうね。」


笑ってはぐらかされたし


『えっと・・』

「まぁ、気にしなくてもいいから。そろそろ昼休み、終わるぞ。」


時計に目をやり、勝手に幕引きされちゃうし





『あの、入江先』

「あっ、そうだ。今度の数学科の歓迎会だけど。」

『あたしが幹事です。』

「宜しく頼む。何か手伝うことがあったら言ってくれ。」

『わかりました。』


あたしにはお馴染みの
いつもの涼しげな顔に戻って
話、逸らされちゃうし



「じゃあ、行くか。」

『ハイ。』


わざわざ入り口のドアをガラッと開けてくれて
数学準備室からあっさりと退出させられるし


入江先生の様子がおかしいことも
余裕がない理由もはっきりしないまま
あたし達は数学科の新人歓迎会当日を迎えた。

あたしにとって
まさかの出来事が起こることも知らずに


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