アンティーク
「あ、それ。将生が好きなサンドウィッチ屋の」
『将生』と言う名前に、分かりやすいほど心臓が反応する。
「ハ、ハンカチのお礼に貰ったんです」
「ああ、あの時の。それ、美味しいよね。俺もハマっちゃったんだ。サンドウィッチって意外と奥が深い」
レオさんがそのパンについて語っている時、一瞬風が吹く。
意外と強い風に、バランスが保てなくなってしまい、体が傾く。
「あっ」
「おっと」
身体が、レオさんの腕によって抱き締められる。
それは、力強い感覚で初めて味わうもの。
たった数秒の出来事だった。
「大丈夫?」
「あっ、はいっ、あの、ありがとうございます。でも、私行かなきゃいけないので」
いきなりの出来事に、私の頭はついていかない。
頭の中を整理するのに、少し時間がかかりそう。
だから、その時間が欲しくてついそんなことを口走ってしまう。
それに、レオさんにもドキドキしてしまうなんて、今日の私はおかしい。
抱き締められた時の感覚は、思い出すと妙に恥ずかしくなって、心臓がうるさくて、どうすれば冷静になれるのか分からなかった…………。