アンティーク

練習室に戻ると、私は何も考えられないようにするために、1秒でも早くヴァイオリンを弾き始める。

譜面台に楽譜を置いて、ページを捲る。

そこに並べられている音符を、それに従って音にする。

だけど、音符も自分の弾く音も全く頭に入ってこない。

こんなに集中できないのは、初めてかもしれない。

「こんなんじゃあもう……」

私は、楽譜と楽器を急いでしまう。

こんな気持ちで練習するよりも次の人に部屋を譲る方が良いと思い、練習室をあとにした。





偶然、授業終わりのありさと会う。

ありさは、私の幼馴染で小学からずっと一緒で今は違う学科に通っている親友。

そんな彼女が私の顔を見て、目を丸くして話しかけてきた。

「玲奈? どうしたの?」

「ありさ」

「ちょっと、なんか、疲れちゃって。色々……」

「そう、大丈夫?」

「うん、なんか、良くなってきたかも」

ありさと話していると、だんだんと気持ちが落ち着いてきて、身体の力も抜けてくる。

「なんか、美味しいもの食べに行こうか? こういうときは。パーっと」

ありさは私の肩をポンと叩くと、「行こう」と言って方向転換をして歩き始めた。
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