アンティーク

あの時から、なんとなく気まずくてアンティーク店に行けていなかった。  

どうやって挨拶をしたら良いのか、私の経験の中からその答えを出すことができなかったから。

だけど、今日は意を決して久しぶりに足を運んでみる。

「いらっしゃいませ」

「こ、こんにちは」

レオくんは、私の顔を見るといつもと変わらずに優しく微笑んでくれた。 

それに私もつられて微笑み返す。

なにか欲しいものがあったわけではなく、ただここに来たかった。

気まずいという気持ちの裏側には、彼に会いたいという相反する気持ちも存在していた。

「久しぶりですね」

久しぶりのレオくんの声は、耳にすうっと滑らかに入ってくる。

「レオくん、なにかおすすめのものってありますか?」

「あ。呼び方、レオさんからレオくんになってる」

「言われてみれば。…………迷惑、ですか?」

無意識にその名前の呼び方が変わっていたことに、彼に言われて初めて気付いた。

レオくんなんて、馴れ馴れしいに決まってる……。

1人でそう考えて、1人でブルーな気持ちになる。

「全然。むしろ、嬉しいよ」

だけど、レオくんはたったその『嬉しいよ』という5文字で私の心の雲を晴らしてくれた。
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