アンティーク

子供のように、大きな声を出して泣いてしまう。

止めたいのに、涙が止まらない。

こんな恥ずかしい姿を見せたくないのに、俺の意思に反して涙は出続ける。

店長は、そんな俺の背中を静かにゆっくりと何も言わずにさすってくれた。

その手は大きくて、暖かくて、冷たくなった心を溶かしていく。

その優しさが、さらに涙を誘うんだ。

別の意味の涙を。





暫くして、ようやくその涙は止む。

「雨は必ず止むんじゃよ」

店長は、その一言をぽつんと言う。

俺の心の雨も、いつかは止むのだろうか。

そして、雲が晴れて太陽はその顔を出してくれるのだろうか。

だとしたら、その時は屈託のない笑顔で居られるだろうか。

「人は皆泣いて成長していくもんじゃ」

タルトの上に乗っている苺を食べた。

「酸っぱい」

レモンのタルトとは違う甘さと酸っぱさが、身体中を駆け巡る。

今日の雨は、苦さを少しだけ流してくれた。
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